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シンガポールに見る水資源獲得のための闘い

シンガポールに見る水資源獲得のための闘い

アジアで最も豊かな国であるシンガポールは、マレー半島の先端に位置する、東京23区ほどの大きさの都市国家です。多くの富裕層や多国籍企業を引き付ける優れた制度と、効率的な政府運営が話題に上りますが、インフラ面での脆弱さを抱えています。それは水道水の供給です。

シンガポールと水の歴史

シンガポールと水の歴史
シンガポールと水の歴史

シンガポールは、もともとイギリスの植民地として栄えましたが、太平洋戦争時に日本がシンガポールを占領・統治した後、民族自決の波に乗り、独立が目指されました。しかし、シンガポールは単独で独立するには小さすぎると考えられたため、「マラヤ連邦」という国としていったん独立しています(マレーシアと同じ国 [連邦] でした)。

しかしながら、マレーシアに多いマレー系住民・マレー系政党が、シンガポールに多い中華系住民の影響力を危惧されたため、マラヤ連邦を追い出される形で独立することになります (1965年)。シンガポールの国旗に、イスラムのシンボルである月と星が描かれているのは、独立時に「将来マレーシアへの復帰に備えて」マレーシア文化を残したとされています。中華系が大半のシンガポールで、国歌の歌詞が、英語でも中国語でもなく、マレー語であることも、その名残です。

シンガポールはマレー半島の先端で、貿易港として世界トップレベルの規模を誇ります。周りは海なので海水は豊富にあるのですが、地理的に、飲み水を供給する河川や、地下水を得ることができません。よって、水道水の供給のかなり部分を、マレーシアからの水道供給パイプラインに頼っています。特に独立当時は、自分たちを追い出した相手に頭を下げて、水を供給してもらわないと生存できない、という屈辱的な状況だったわけです。マレーシアからすると、水の供給が最強の外交カードであり、「水を止めるぞ」と、シンガポールを何度となく脅かして、マレーシアの意向を通そうとしたり、外交的な不快感を表明したりしてきました。

そんな状況に、シンガポールも黙って何もしなかったわけではありません。貯水池を作ったり、海水を淡水にするためのプラントの建設を行いました。しかしながら、増え続ける人口に水を供給するにはダム・貯水池は十分ではなく、また淡水化プラントは当時、あまりに高額すぎて現実的にはフル稼働させられないものでした。

マレーシアとの交渉決裂

マレーシアとの交渉決裂
マレーシアとの交渉決裂

マレーシアは水の供給という外交カードをフルに利用します。1998年から2003年のマレーシアとシンガポールの水供給交渉においては、2061年以後のシンガポールへの水供給価格についてが交渉の争点となりました。マレーシアは、当初の提示した水供給価格を覆し、シンガポールの足元を見て大幅値上げを試みます。そしてシンガポールは、この新価格の受け入れを拒否し、交渉が決裂します。これはすなわち、2061年以後、シンガポールはマレーシアから水の供給が受けられなくなったことを意味します。

2003年のマレーシアとの交渉決裂は大きな衝撃でした。しかしながら、シンガポールには2061年になるまでの58年という時間が与えられました。そして、この状況を逆手にとって水資源の研究開発のハブとなり、自らが世界の水資源研究をリードする意欲を見せることになりました。2006年からの水分野に対する政府の巨額の投資や優遇政策が功を奏し、現在では日本の東芝や東レといった企業も、シンガポールに水研究の拠点を置くほどです。世界的にも、シンガポールが水研究の中心地のひとつだと見なされています。

4タップ=4つの水資源

4タップ=4つの水資源
4タップ=4つの水資源

交渉決裂以後、生存をかけてシンガポールの水資源多様化戦略が推進されています。マレーシアから水が供給されなくなるまで、シンガポールはマレーシアから輸入する水に加えて、3つの水資源をフル活用し、マレーシアの依存度を低下させようとしています。この4つの水資源を、4タップと呼んでいます。

・人口貯水池
・マレーシアからの輸入水
・再生水(通称ニュー・ウォーター)
・海水淡水化プラント

この中で、研究開発が最も寄与すると目されているのが「再生水」と「海水淡水化プラント」の2つです。再生水は、すでにシンガポールの総需要の30%を満たすことができています。海水淡水化プラントは、総需要の10%程度ですが、今後は処理コストを低下させて、より多くの需要を担うことが期待されています。

転んでもただでは起きない

転んでもただでは起きない
転んでもただでは起きない

シンガポールは、エリート公務員の給料が非常に高いため、優秀な人材をエリート公務員として採用できています。そして、こうした国の英知を結集させた人材が、国の長期戦略を担っています。1998年から2003年での水供給交渉において、マレーシアはシンガポールの足元を見て交渉してきたのですが、シンガポールは本気で独力での水資源開発に注力し、そして成功しつつあります。ピンチはチャンス、という言葉がありますが、シンガポールの水資源の歴史を見ると、まさにこの言葉がぴったり当てはまります。シンガポール、恐るべしです。

コメント & トラックバック

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  1. とても分かりやすくまとめられていて、助かりました!ありがとうございます。

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